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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     

 もし、このカメラに向かって、にっこりと微笑んだ暁には、

 今夜か明日の夜に届くであろう “兄からのメール” には、

 「可愛い笑顔が見れた」等の文面が、並ぶのだろうか?

「………………」

 お馬鹿な考えが一瞬頭を過ぎり、すぐにそれを打ち消す。

 A wise man keeps away from danger.
 ――君子危うきに近寄らず

 先人は素晴らしく為になる言葉を、残してくれているではないか。

 匠海に近寄ると、ろくな事が無い。

 自分にとっても、兄にとっても、

 そして、周りにとっても。

「ヴィヴィ~。20分後から、FSの後半、滑って見せてくれるかい?」

 教え子の集中力が散漫である事に、目敏く察したらしい、ショーン・ニックスの呼び掛けに、

「あ、はい! 20分後ですね」

 コーチに きびきびと返事を返したヴィヴィは、薄紫色のジャケットを脱ぎ、

 ジャンプの練習へと移って行った。






 その20分後。

 リンクフェンスに両腕を乗せたヴィヴィは、両手を握り締めながら、ぶつぶつ呟き、

「私は女神……わたしは、めがみぃっ 私は全ての運命を掌握する、至・上・の・存・在……っ」

 大きな瞳を細めながら、自分で自身に暗示を掛けていた。



『ヴィヴィは “運命に振り回される人間” でもあり、

 この世を司る “運命の女神” をも演じるんだよ?』


『解かるね? 運命に振り回されて悲嘆に暮れるばかりじゃなく、

 「自分が総てを支配する」毅然とした孤高の滑り――

 それを目指すんだ』



 1週間前に振付を確認してくれた、宮田の言葉を噛み締める。

「ある時は、ブリタニア(英国)。またある時は、天照大神(日本)……アルテミス(ギリシャ)……ルルコシンプ(アイヌ)……はたまた、カンドゥマ(チベット)……」  

 地球上のあらゆる女神の名を挙げ連ねていけば、自分の薄っぺらな身体に、何かが憑依してくれる気がして。

 そして、

「我はっ か~み~さ~ま~っ ヽ(-_-)ノ」

 天井へ向かって両腕を掲げ、そう のたまう現・世界女王。

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