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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     

 目の前に広がっていたのは、

 新月の夜の海が如き、黒々としたシーツ。

「ぉに……ちゃ……っ」

 傍に気配を感じるものの、その姿は見えなくて。

「ヴィクトリア……」

 あたし の名を呼ぶ愛おしい声に、勝手に涙腺が暴走して。

「おにぃ、ちゃぁ……んっ」

 淡く滲む視界。

 あたし は必死に、漆黒の波間、

 力の入らぬ両腕で、有るべき姿を求め続ける。

「ん、ここにいるよ」

 すぐ後ろから耳に吹き込まれたのは、

 どこまでも自分を甘やかす、あたしの男 の声。

「……きも、ち……いぃ……よぉ……っ」

 小ぶりな尻を、少しごつごつした掌で撫で回されるのも。

 シーツに潰された、ささやかな乳房を捏ねられるのも。

 時折、

 己の主を思い起こさせるように、

 無理やり奥まで捻じ込まれ、啼かされるのも。

(全部、ぜんぶ、きもちいいの……)

「そうだね」

 柔らかな相槌は寄越すのに、緩慢に腰を振るだけの男に、

 あたし は振り向いて。

 乱れた金糸の間から、慈悲の憐れみを希う。

「もっと……っ もっと、ヴィヴィにイケナイこと、してぇ……?」

 お兄ちゃんだったら、いいの。

 ううん。

 お兄ちゃんしか、厭なの。

 お兄ちゃんしか、欲しくないの。

「イケナイ事?」

 切れ長の瞳を細め、身を屈めてくる男に、

「うん……、うんっ ヴィヴィ、イケナイ子、だから」

 あたし は涙を溢しながら、必死に腰を振って誘惑する。

「ああ、知っている……」

 浮き出た肩甲骨に、肩の先端に、唇を押し付けられながら、

「我が儘で」

 逞しい両腕の檻へと、囲い込まれれば。

「甘えん坊でっ」

 途轍もない安堵と、

 より深く交わる事への期待に、はしたなく身震いしてしまう。

「お前はいつも そうやって、俺を振り回す――」

 そんな あたし を詰る言葉にさえ、

 ぞくぞくと、歓喜の波が押し寄せて来て。

「ひぁ……っ!? きゃぅうっ あ、きもち、いぃよぉ~~っ あ、あっ ぁあっ」

 激しく揺さぶられ、焦点の合わないまま、

 あたし は恍惚の声を、ただただ撒き散らし――



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