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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     



 そこで、淫夢から覚醒した。



「………………」

 小鳥が「チュンチュン」囀る声も、

 新聞配達の自転車の音も、

 そういった “朝の音” が聞こえずとも、

 ヴィヴィは自分がいる場所が、ロンドン市内のホテルと言う事くらい、すぐに気付いて。

「~~~っ!!!」

 シングルベッドの上、本当は どったんばったん のた打ち回りたかったが、

 隣のベッドで英国のアイス・スケーター、ペニー・クームス(34)が眠っているので、ままならず。

 とりあえず上掛けの中、乱れた金の頭を更にぐしゃぐしゃと掻き毟る。

(よりにもよって、よりにもよってっ なんて夢見てるんだ、私~~っ!!)

 9月1日(金)――。

 甥の匠斗の1歳の誕生日である “めでたい日” は、

 そんな色欲にまみれた始まりで、幕を開けた。






「デニスに……「ヴィヴィって、女の子が好きなの?」って訊かれたけど、どういうこと……?」

 ロンドン・ヒースロー空港へと向かう貸切バス。

 後ろ寄りのシートで ぼへっとしていたヴィヴィに、日本語で尋ねてきたのはクリスで。

「……はぁ……orz」

 目の前で思いっきり脱力する妹を、

「ヴィヴィ? 何かあった……?」

 気遣わしげに伺ってくる双子の兄。

「ううん……。ていうか、もういっその事、レズで通そうかな……」

 もちろん日本語で ぼそりと嘆いたヴィヴィに、クリスは良い顔をしなかった。

「それは流石に、辞めた方がいいんじゃない……? 真実ならまだしも、日本はそういう偏見、まだまだ多いと思う……」

 一過性に投げやりな態度を取っても、後で苦労するのは自分だろう? 

 そう釘を刺してくれたクリスに、ヴィヴィは素直に謝った。

「そうだね。ごめん、馬鹿なこと言った」

 それに同性愛者だと宣言して、いざ女性に言い寄られても困る。

「ううん……。とりあえず、デニスには「異性と友達以上の関係性を築くのに、不安があるみたい」って、答えておいたから……」

「うん。ありがと」

 的確なフォローをしてくれたクリスに礼を言うと、ポンポンと頭を撫でた兄は、

 制作のITV(英国テレビ局)スタッフ近くのシートへと、戻って行ったのだった。






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