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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章       

 幾度と無く繰り返される “ロシアの舞踏会” さながらの主旋律に、

 試合を終えての達成感と、緊張から解放された高揚感も手伝い。

 ヴァイオリンを爪弾きながら、くるりんくるりん踊りまくる妹と、

 常と同じく無表情ながらも、金色の頭を気持ち良さそうに揺らす双子の兄。

「ヴィヴィ……」

 名を呼ばれ振り向けば。

 クリスの灰色の瞳は、テーブルの上に置きっぱなしの弓に注がれていて。

 てててっ と軽い足音を立てて、それを取りに戻ったヴィヴィ。

 今度は妹が主旋律を奏で、兄が伴奏を請け負う。

 そうすると、同じ旋律も また違った曲に聞こえて。

「うふふっ」

 思わず零れた笑い声。

(むふ~、楽しいなあ~♡)

 クリスと一緒に何かをするのが、ヴィヴィは大好きだった。

 バレエ。

 タンゴ。

 スケート。

 楽器演奏。

 様々な事柄に対する対話・討論。

 何をするにも息ぴったりで、新たな発見や感動があって。

 そしてクリスは、絶対にヴィヴィを傷付けることは無い。

「………………」

 大きな瞳が、すっと細まり。

 しかし、次の瞬間には、元通りの輝きを宿していた。

「……お兄ちゃん、匠斗も……」

 防音室の分厚い扉。

 片腕に息子を抱きながら、押し開けて来たのは匠海だった。

 思わず止めてしまった、弓を持つ右手。

 途切れた音色に「続けて」と上の兄が促し。

 それに応え、再び主旋律を奏で始めたクリスに、ヴィヴィも慌てて弦を弾いた。

「び……」

 匠海の腕から降りた匠斗が、てとてと と短いあんよで傍に寄って来て。

 下から焦茶色の瞳に「じい~~」とガン見されたヴィヴィ。

(うぅ……、めっちゃ見られてる……)

 ワンピの裾に気を付けながら、床に膝立ちになると、
 
 甥に見えるように、ヴァイオリンを弾いてやる。

「あ~う~」

 嬉しそうにその場で、足踏みの真似事をする様子は、やはり愛らしくて。

「匠斗、ダンス上手だね……?」

 クリスがそう褒めれば。

 小さな黒い頭は、今度はくるりとそちらを振り向き、クリスのチェロの傍へと寄って行く。

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