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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章       

「頼むよ。最近、ショスタコビッチにハマってて。でも演奏したくても、1人じゃ出来ないからね」

 匠海のその懇願に、

「分かった。僕もやってみたいし……」

 そう言って、クリスが受け取ったのは、チェロの楽譜。

「は~~い」

 間延びした返事をしながら、ヴィヴィが受け取ったのは、ヴァイオリンの楽譜。

 そして、匠海が手にしていたのは、ピアノの楽譜だった。

「あ~~い」

 叔母の真似をして、紅葉の掌を父へと差し出す匠斗に、白い歯を覗かせ破顔した匠海。

「あははっ 匠斗には まだ難しいよ。ほら、お前にはこっち――」

 ひょいと息子を抱っこし、グランドピアノへ向かった匠海は、

 自分の膝の上に乗せたまま、軽快に鍵盤を弾き始めた。

 キャッキャと笑顔を覗かせ喜ぶ匠斗と、それに合わせてチェロを奏で始めたクリス。

 そして、ヴィヴィはというと、

「~~~っ」

(ああっ! 沈まれ、心臓……っ)

 何故か、ピアノを弾く匠海の姿に瞳を向けながら、薄い胸にヴァイオリンを抱いていた。



 どうしよう。

 やっぱり、

 やっぱり、

 格好良い――。



 自分の上の兄は、姿形、背格好等の見目は勿論、

 その内面もウィットに富んでいて、才能豊かで、愛情に溢れていて。

 とても “素敵な男性” なのだと、

 そう、再確認させられて。

 思い知らされて。

(ぐぅ……っ やっぱり、好きなんだよなぁ……(´;ω;`))

 やはりヴィヴィの瞳には、匠海は他の誰よりも、輝いて見えるのだ。

 大きな瞳が、うっとりと細まり。

 ヴァイオリンに隠された胸が、トクリトクリとその鼓動を早くしていく。

 目が離せない。

 1秒でも長く、兄の傍にいたい。

 同じ時を共有したい。

 自分の心と躰は、

 あまりにも従順に、貪欲に、

 匠海だけを求めてしまう。




 例え、

 彼らが今、愉しそうに奏でているのが、

 “アンパンマンのマーチ” であったとしても――




匠海「♪そうだ 恐れないで み~んなのために~♪」
匠斗「あ~~」
匠海「♪愛と 勇気だけが と~もだちさ~♪」
匠斗「う~~」





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