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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第9章       

「いや……。だから、ヴィクトリアは優しいんだな、と思ってね……」

「え?」

(私、が……“優しい”……?)

 兄の言葉に引っ掛かりを覚え、ヴィヴィは微かに首を傾げる。



 優しい?

 優しい……?

 自分が、優しい?



(い、言われた覚え、かつて無い気がするんですけれども……orz)

「ほら。死ぬほど努力する人間は、人の痛みや辛さが判るだろう? だからお前は、みんなに優しく出来て、愛情深いんだろうな」

「………………」

 何だか、えらく買い被られた気がして、正直くすぐったくなったヴィヴィ。

 たまらず、ふいっと兄から視線を外せば、

 金の髪越しに擽るように、耳元へ唇が添えられて。

「俺はそんなヴィクトリアに、心底 惚れてるんだぞ?」

 耳に吹き込まれたのは、少し掠れ気味の愛を囁く言葉だった。

「~~~っ!?」

 未だかつて、言われた事の無いワードに、ぎくりと身体を強張らせたヴィヴィは、

(ほ……っ ほれっ!? ほ、ほほほほっ 惚れてまうやろ~~っ!!)

 そう意味不明な雄叫びを、心の中で上げていたのだった。

 まったく。

 何て事を言ってくれるのだろう、この男は。

 こっぱずかしくて。

 でも、やっぱり嬉しくて。

 けれど次の瞬間、薄い唇から発されたのは、 

「……そうして、私みたいな人間は、天才型に玩ばれるのよね……」

 そんな しょぼくれた言葉だった。

 そして、匠海の返しも、

「そうだな。人の良さに付け込まれてな?」

 そんな 酷いものだった。

「……~~っっ」

(じ、自覚あるんですかい~~っ!?)

「あはは。さあ、終わったよ」

「……あ、ありがと。ふふ、可愛い♡ キャンディーみたい」

 マットなスモーキーピンクのマニキュアに、ジェルの瑞々しさが加わり。

 (楽器演奏の為)あまり爪を伸ばせないヴィヴィでも、とても素敵な仕上がりになっていた。

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