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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 耳に差し込んだイヤホンからは、FSの音源が流れていた。



 運命の女神に傷つき 私は涙する

 かつての恵みも 今は剥ぎ取られた


 まことに「豊かな緑の黒髪も

 時が至れば禿げ頭」とあるとおり



 運命の女神の玉座にあった その昔

 私は栄華の花の冠を戴いていた


 だが 華やかな至福のときも今は昔

 私は栄光の頂から突き落とされた



 運命の女神の車輪は回る



 私は落ちぶれ

 他の者は高みに昇る


 頂にある王よ 破滅を恐れよ


 車輪の下には 滅んだトロイの女王

 ヘクバの名が見えるが故に



 頭の中でプログラムの動きを再現しつつ、廊下の隅を行ったり来たりしていたヴィヴィ。

 気になる部分をリピートしようと、手にしていたiPodの液晶に視線を落とせば、

 灰色の瞳に飛び込んできたのは、原詩『カルミナ・ブラーナ』に描かれた挿絵。



 中央に描かれるは「運命の車輪」に鎮座する「運命の女神――フォルトゥナ」

 車輪の左側には、這い上がろうとする人間。

 車輪の上には、頂点に昇り詰め王として君臨する人間。

 車輪の右側には、王冠を携えた頭から転落していく人間。

 そして、

 車輪の下には、全ての下敷きになった人間

 ――それぞれが描かれている。


 運命の女神が司る車輪は、当然回る。

 上記4人の人間の立ち位置も、その都度 替わる。

 一方が昇れば一方が沈み。

 車輪の頂点で今まさに栄光を手にしている者も、時が経てば いずれ車軸の下に潰される。


 FSにこのカンタータを選んでから、毎日の様に目にしてきた挿絵。

 人生とは「運命の車輪」と同様、未来永劫 頂上で栄華を極めていられる訳では無いのだ。

 自分に置き換えてみれば、根幹を成すフィギュアは、

 20代後半ともなれば、体力気力共に10代の若い選手達に敵わなくなるかも知れない。

 そうなれば、今 頂上付近にいるであろう自分は、途端に奈落の底へと突き落されるだろう。


――――
※挿絵:http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/43/CarminaBurana_wheel.jpg
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