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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 そして、フィギュアを離れた自分はというと、

 天寿を全うするまでの数十年、

 ずっと「運命の車輪」の――



 滑走順まで15分を切ったというのに、そんな後ろ向きな思考に陥ってしまったヴィヴィ。

 ぷるぷると金色の頭を振り、無理やり気分を一新すると、手早くiPod操作し。

 その直後、

 何故かノリノリで、ステップの確認を始めていた。





「ヴィヴィ、そろそろ……」

 リンクサイドに帯同してくれるクリスの声掛けに、振り向いたヴィヴィの顔は気合で漲っていた。

「お、良い表情だね。さあ、出番だ出番!」

 明るい声を掛け両手を叩き、教え子を発奮させるショーンコーチにも、大きく頷き。

 日本代表ジャージを纏ったヴィヴィは、先頭を切って ずんずん廊下を進んで行く。

 テレビカメラが追随しているのも気にせず、金の頭を小刻みに揺らせる どこか興奮気味の妹を、変に思ったのか。

 後ろを着いて歩いていたクリスが、その片方の耳からイヤホンを引き抜き、己の耳に挿してみれば、

 リンクイン直前の前世界女王が聴いていたのは、まさかまさかの曲だった。



 リングに向かう 長い廊下で

 何故だか急に 君は立ち止まり

 ふりむきざまに 俺に拳を見せて

 寂しそうに笑った


 やがてリングと拍手の渦が

 ひとりの男を 飲み込んで行った



「「You’re king of kings (ง°̀ロ°́)ง(ง°̀ロ°́)ง」」

 思わず “双子のさが” で、決め台詞をハモってしまった双子。



 立ち上がれ もう一度その足で!

 立ち上がれ 命の炎燃やせ!



 完全に往年の名曲『チャンピョン』に、己を投影してしまっているヴィヴィが、

 片方の拳を突き上げ「♪ライラライ ラ ライラ ライライ!♪」と続けようとするのを、

 流石に双子の兄は、細い二の腕を掴んで辞めさせたのだった。



 そんな緊張感も糞も無いヴィヴィは、前の滑走者――15歳の全米女王の演技には見向きもせず。

 ようやく回ってきた自分の出番。

 氷に降りる前に一度、青シャドーと青マスカラに彩られた目蓋を静かに閉じ。

「ふぅ~~、集中集中」

 そう自分に言い聞かせ、リンクインしたのだった。




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