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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

 映画『ヒッチコック』をメインテーマとした、クリスの今シーズンの振付が終わったのが19時頃。

 リンクに併設するカフェで、執事・五十嵐が持参してくれたディナーを食べていた双子と母・ジュリアンの元に、珍客が訪れた。

「ぐらま~~っ」

 カフェに響き渡った甲高い幼児の声。

 食後のコーヒーを飲んでいたジュリアンは、カップを放り出さん勢いで立ち上がり。

「んま~~! 匠斗! グランマに会いに来てくれたの~~❤ んチュ。ん~~、チュっ❤」

 初孫を抱き上げた母は、大きな瞳をこれでもかと細めながら、真ん丸ほっぺに幾度もキスを降らせていた。

 ちなみに「ぐらま」=「グランマ」である。

 決して貧乳の叔母への当て付けに、豊満な祖母を「グラマー」呼びしている訳では無いのであしからず。

「兄さん……。珍しいね、平日にリンクに来るなんて……」

 匠斗の後から姿を現した兄に、クリスはそう声を掛けたが。

 豆腐ハンバーグを咀嚼していたヴィヴィは、ちらりともそちらを伺う様子は無かった。

「ああ、匠斗が「双子に会いたい」って言って聞かなくてね。ぐずって仕様が無いから連れて来たんだ」

 「悪いな。邪魔しないように、すぐ連れて帰るから」と断りを入れる匠海にも関わらず、ジュリアンは早速 リンクへと幼児を抱っこして行く。

 不思議そうに視線で2人を追っていたヴィヴィの目の前、

 靴のまま氷に乗せられた匠斗は2.3歩歩いたかと思えば、すぐにコロンと尻餅を付いてしまった。

「え!? ちょ、大丈夫なの?」

 思わず箸を握り締めたまま立ち上がったヴィヴィだったが、2人の兄も他の皆も もう見慣れているらしく。

「大丈夫……。匠斗はしょっちゅう、氷の上で遊んでるから……」

 クリスのその言葉に「そ、そうなんだ」と安堵したヴィヴィは、すとんと席へと腰を戻した。
 
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