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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第14章        

「お前達はハイハイする前から氷の上にいたな~~。冷たい筈なのにはしゃいで。氷から降ろそうとするとグズって大変だった」

 弟と妹を交互に見比べ、そう昔を懐かしむ匠海。

 その目の前「御馳走様でした」と両手を合わせ、とっとと席を立とうとした、その時。

「あ、ここにいたのね? 私、間違えてスタッフルームに行っちゃったわ」

 明るい声と共に現れた瞳子と、ばっちりと目が合ってしまった。

「こんばんわ、瞳子さん。ゆっくりしていって下さいね」

 社交辞令以外の何物でもない挨拶と共に、義姉と入れ違いにカフェを後にし。

 キャッキャと無邪気にはしゃぐ甥の方へと、向かおうとした、が――

「きゃ……っ!?」

 すぐ傍から聞こえた小さな悲鳴に ふと背後を振り返れば、僅か2cm程の段差に躓いたらしい瞳子の身体が傾いで。

「瞳子!」

 灰色の瞳には それらたった1秒ほどの出来事が、

 まるで映画やドラマのワンシーンの様に、スローモーションで映し出されていた。

 咄嗟に両腕を差し出し、妻の肩と腕を支えた男の姿。

 大きな掌に包み込まれた妊婦は、一瞬 置いて へなへなと床へ両膝を着いてしまった。

「危ないな、転んだらシャレにならないぞ?」

「び、びっくりしたわ……。ごめんなさいね、お腹のせいで足元見にくくて……」

 若干 咎める様な響きを孕んだ匠海の言葉に、両腕を解放された瞳子は今更ながら大きな腹部を大事そうに庇う。

 新しい命を宿した腹はグラマーな義姉でさえ、もう胸より張り出しているのだ。

 足元が不用心になるのは当然の事で、それを助ける夫は正義以外の何ものでも無い。

 そう、ちゃんと解かってはいるのに。

 まるで極寒の地に立たされているかの如く、足許から這い上がってきた震え。

「………………」

 指先が痺れる程冷え切った己を癒す為だけに、踵を返したヴィヴィが向かったのはリンクだった。

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