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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章     

自分と同じく産れた時からその世界に身を置いていた鈴の思考は、ヴィヴィにとってとても身近だった。

「人の為に生きる、誰かに貢献する、社会の役に立つということが、こんなにも自分の人生を豊かにしてくれるのだな、ということは、日本舞踊をしていなかったら気づかなかったかな?」

花柳流の機関紙に載せる対談で、鈴はそう喜びを語っていた。

「そうですよね。私もフィギュアをしていなかったら、自分から何かを発信したり、その反応を受け止めたりする経験も無かっただろうなと思います」

「作品やお役の意味、なぜ上演しなければならないか。いま日本で忘れかけられている色んな大切なこと、和の心、忠義、恩、そういうものが日本舞踊の作品で伝わるはず。けれど、言葉が難しかったり、長くて眠ってしまったり、せっかくのチャンスがうまく発揮できていないの」

日舞を含む日本古来の芸術に警鐘を鳴らす鈴に、ヴィヴィも思うところがあった。

「フィギュアも、今は持て囃されているけれど、いずれ下火になる事もあるはず」

「古臭い、敷居が高い、年寄りばかり、そんな誤解を引きずったままではこの先 何百年も持たないわ。だから……、こう言うと格好つけていると思われるかも知れないけれど……、自分の人生を使って「日本舞踊の歯車を磨く行為」をしていかなければと思ってる」

切々と彼女の肩に乗ったものを語る鈴に、ヴィヴィもシニアに上がる際に母から言われた言葉を思い出し。

そして、自分が更に高難度のエレメンツや完成度、はたまた表現を究めていくことで、己も「フィギュアの歯車を磨き」その更なる発展に貢献出来るのだという思いを強くした。

自分の考えをしっかりと持ち、周りに流されず、思いを行動に移せる彼女に、心の奥底から「自分もこうありたい」と、鈴を慕う気持ちが強く芽生えた。

煎茶が置かれたテーブルを挟み、にっこりと微笑みあう二人。

お友達――は、年上の彼女におこがましいかも知れないけれど、ぜひこれからもこの素敵な女性とお付き合いさせて貰いたい。

そう思い対談終了後、スマホを取り出し連絡先をお伝えしようとした、その時。

「あなたのお姉さんもね、そう、考えてらっしゃると思うわ?」

隙無く着込んだ着物の襟元を整えつつ立ち上がった鈴に、咄嗟には何の事か分からなかったヴィヴィが「え?」と首を傾げる。

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