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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第16章     

「ふふふ。安堂 瞳子――ヴィヴィちゃんの、ええと、義理のお姉さん? 私、お友達なのよ」

「………………」

「瞳子ったら、会う度に「ヴィヴィちゃんってホント可愛いの」と惚気てくるのよ。だから私も会えるのを凄く楽しみにしていたの」

華道において “個性を尊重した自由な表現” を重んじる草月流・師範の瞳子と、日舞において “古典を主” とする花柳流の師範である鈴――それでも互いに接点があるようだ。

「そう……でしたか。義姉ともども、お世話になりまして」

一瞬にして顔が強張ったヴィヴィは、それでも苦心して くしゃりと頬を綻ばせると、誰からも感づかれないよう静かにスマホを仕舞ったのだ。



演技前半、3回転ルッツ、3回転サルコウを難なく決め。

そして演技後半。

テンポとオーケストレーションが次々変化を重ねながら進行していく吹奏楽。

ホルンの不気味なファンファーレと共に飛び上がった、3回転ルッツ+3回転ループのコンビネーション。

冒頭の第一主題をなぞる金管楽器に被せた、3回転フリップ+2回転ループ+2回転ループの3連続ジャンプ

着氷の流れを殺さず ひらりと跳び上がった、フライングからの足替コンビネーションスピンでは、スピンのポジションを移動させる毎に、日舞の美しい所作を纏った掌で魅せる。

そして曲の終盤で突如現れる、耳をつんざく甲高いホイッスル。

広大なリンクに響き渡るそれは、客人が来たことを知らせる、無慈悲な呼び鈴か。

はたまた、奥様が客人を迎える際にあげる「泣く様な笑う様な笛の音に似た不思議な声」か。

両耳を掌で塞ぎ天を仰いだヴィヴィはそれでも、悲鳴を纏った笑顔を浮かべながら、ステップシークエンスに突っ込んでいく。

亡き夫の遺産を湯水の様に吐き出し、身体は蝕まれ、ついには庭先に吐血しながらも、くるくるコマねずみの如く接待の狂奔を続ける。

痛々しくも「義」を貫く献身的かつ自虐的な姿は滑稽でもあり、また凄まじさすら感じさせる。

死の気配すら滲ませる圧巻のステップは、観客に息をつかせる暇さえ与えず。

執拗に畳みかけられる木管楽器の吹き伸ばしと、びりびりと空気を震わせる複数のホイッスルが、心拍数を押し上げる。

そして、訪れた一瞬の静寂。

紫の薄衣をはためかせながら舞い降りた、3回転フリップ。

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