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悪夢の誘惑
第1章 --
「茂くん・・・」

 甘い声が耳元をくすぐる。

「ねえ・・・、尾方茂くん・・・」

 若い女性のささやき・・・。

 茂はぼんやりと目を開いた。


 真夜中。

 真夜中・・・のはずなのに、部屋は昼間のように煌々と明るかった。
 見慣れた天井も、灯いていないライトもしっかりと目視できる。
 ふと声のした方へ視線を動かすと、そこには見知った顔の少女の姿があった。

「中野・・・、絵梨・・・さん?」

 尾方茂の言葉に中野絵梨はにっこりと微笑む。

「!??」

 突然の出来事に茂は言葉も出ず、ただただ、目を丸くする。

 ・・・・・・夢??

 混乱する頭の奥で「これは夢だ」と脳が茂に忠告する。
 ただ、夢の中で「これが夢の中だ」と納得するのは妙な心地だし、夢の中の割には頭が冴えている。

 それに夢にしては異様にリアルだ。

 けれど、クラスの、いや学校全体のマドンナである「中野絵梨」が自分の部屋に居る事は、間違いなく非現実的としかいいようがなかった。

 絵梨は薄布一枚羽織っただけのあられもない姿でベッドの傍らに立っていた。
 胸の谷間を晒し、白い下着が時々見え隠れしている。
 それらを隠す様子もなく薄く笑って茂を見つめている。

 高校の教室で会うときと同じ、大きな瞳の愛らしいアイドルのような顔立ち。
 肩にかかる艶やかな黒髪。
 華奢で白い肌。
 まるで人形のように整った可憐で愛らしい中野絵梨。

 そんな彼女が、言わば半裸の状態で自分のことをただまっすぐに見つめ微笑んでくる・・・、これが現実のはずがない。


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