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不条理な世界に、今日も私はため息をつく
第3章 売られました
 



「ん……っ……」



 あたしは目を開いた。


 ぼんやりとした白い視界が、やけに持続する。


 ここは……どこ?


 青と黄色の二色で拡がった、あの蒼穹の砂漠ではないようだ。

 だがどこなのかまるで見当もつかない。
 
 目を凝らしてあたりを見渡せど、……なにもないのだ。


 果ても境界も――。


 あるのはただ……どこまでも目映い白い色彩。

 自分の輪郭すら白に溶け合い消えている。



 白は膨張する。

 だからなのだろうか……。


 質感を持たないはずの境なき無彩色に囲まれたあたしが、妙な閉塞感を感じて息苦しく思ってしまうのは。


 まるで、白い檻に閉じ込められたように思える。


 白一色に染め上げられ、使い物にならなくなった視覚に代わり、聴覚がやけに鋭敏になっている。どっどっという頸動脈の脈動が、確りとした音として感じ取れるようになった。

 それは一定の律動(リズム)を保ち、それに合わせるかのように、なにかの声が早送りされているかのような忙しさで、頭に流れてくる。

 
――勇ましい結愛ちゃんが好きなんだ。僕と付き合って欲しい。


 顔は見えねども、この声は……高校時代に付き合った初カレだ。

 あたしは兄と弟がいるが、彼らは無駄に顔がいいのに重度のシスコンで、その女々しいまでの執着に反抗すべく、あたしは自然に勝気な女子高生へと成長した。


 男の理想型は英雄(ヒーロー)!!

 だから戦隊&ライダー好きだったのだが、気づけばあたしこそが英雄化し、あたしが助けた弱き女生徒達から話題のひととなり、共学なのに……あたし童顔な小柄なのに、宝塚ばりに同性からのみモテていた哀しい過去。

 あたしだって相応の乙女ゴコロはある。男と縁遠くなってしまった不満は現実逃避となり、アニメや漫画に感化された「厨二病」を発症。

 これじゃいかんと自覚した時、告白されたのだった。あたしが、いいなぁと思っていたサッカー部のエースだった先輩に。


――素のままでいてよ。


 そう言うから、喜んで素のままでいたというのに。

 彼に純潔まで捧げたというのに。
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