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不条理な世界に、今日も私はため息をつく
第1章 破談になりました


 売られた喧嘩なら、買いましょう。


 目には目を、歯には歯を。

 左の頬をぶたれたら、右の頬を見せずに相手を袋叩きに。


 今のあたしは絶賛お怒り中なのだ。

 それがさらに煽られ、いつにない攻撃的な強気が打倒クルックゥの力となる。


「結愛必殺、怒りの邪眼攻撃を受けよ!」


 高校時代、付き合った彼氏にどん引きされて以来、封印していた「病気」が復活する。

 その封印を解くことに躊躇ないほど怒れるあたしは、即席の必殺技を携え、目を細めて烈しく画面を睨み付ければ、クルックゥ様は焼き鳥になるのを恐れたのか、何処へかに飛び去ってしまった。

 ふざけたサイトTOP画面からは想像出来ない、至ってシンプルで事務的な入力画面に切り替わっていた。


「ちっ、やけ酒のつまみにし損ねたか」


 あたしは舌打ちした。


 入力画面は、数年前に見た就職活動のエントリー画面のように、実に殺伐として現実的だ。こんな真面目な画面には、クルックゥ様は必要ない。

 もしかして、日頃のひ弱な聡に上から目線で馬鹿にされた苛立ちが、クルックゥ様の幻影を見せていたのかもしれない。

 もしくは、プログラマーがバグのようにサイトに隠蔽していた現実逃避を、垣間見てしまったのか。


 どちらにしろ、クルックゥ様は、表世界には降臨不可能のようだ。

 酒の肴にならなかったのは残念だが、寛大な心で忘れよう。


 さらばクルックゥ。
 
 よその場所で、焼き鳥にされるなよ。



 そしてあたしは、表示されている画面を見つめる。


『貴方が相手の男性に望むことをすべてご記入下さい』


 あたしは、ひとりほくそ笑む。


 さあ、自信過剰なサイトを困らせてやれ。


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