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大地の恋
第2章 若葉の頃
「…………」


「眠いですか?」


「……ん」


「ふふっ」


「……何?」


「今日の板橋さん見てると一番下の弟思い出して」


「………」



これは仕返しだろうか。



「…それ仕返し?一番下の弟って小学生って言ってなかったか?」


「そうですよ。この間一年生になったばっかりで」


「………」


「学校疲れるみたいでご飯食べるとすぐ眠くなっちゃうんですよね」


弟を思い出しているのだろうか橋本さんはクスクス笑っていた。


「…うちも一番下とは年が離れてるけど橋本さんちも離れてるよな」


「そうですね…って言ってもうちは私と双子の弟と、下のチビ二人は母親が違うんです」


「へぇ…」


「だからお母さんは私と13しか違わないんです。下の子達の方が年が離れてるんですよ」


「…そうなんだ、橋本さん結構苦労してるんだな」


能天気そうなこの子からは想像できなかった家庭環境にそう思った。
だから俺はそれを素直に言葉に出したのだけど…



「苦労?何で?」


「大変だったろ?親が再婚するとか腹違いの妹弟が生まれるとか」


「全然ですよ、全然!」


この子はあっけらかんと笑い飛ばした。



「苦労したっていうなら母じゃないですかね。だって私と変わらないくらいの年で突然三人の母親ですよ」


「まあ…確かに」


「弟二人は感受性も強くてなかなか馴染めなかったみたいだけど…でも今では私も弟たちも“お母さん ”て聞くと育ての母が浮かんじゃうんです」


「橋本さんたちのお母さんは?」


「弟たちが幼稚園に入る前に亡くなりました」


「……そう」


「はい」


この子はデカイなと思った。
この笑顔だって強がりや建前じゃない明るさがある。


俺の物差しがいかに小さいものなのかとこの一瞬で思い知らされたような……




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