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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る


 腕を組んで怒っていたニーナがふと横目でアリエッタを見る。


「ねえ、アリエッタ。あたしに相談したってことは迷ってる証拠よね? 昔のアリエッタならその場でお断りしていたはず。でもそうしなかったってことは……本当は描きたいのよね?」


「それは……」


 否定し難かった。ギルデロイに恩はある。その恩に報いるためにも、どんな頼みも受けるべきだ。アリエッタの葛藤はギルデロイには無関係なのだし。


 だが確かに昔のアリエッタなら他のことで恩に報い、公の場に絵を出すのを断っていただろう。


「ってことはよ? 迷うだけの何かがアリエッタに生まれてるってこと? そうね? 誰か描いてみたい人がいるんじゃない!?」


 ニーナはまるで物語に出てくる名探偵のよう、ズバズバと言い当てる。実際はアリエッタとの付き合いが長いので、彼女の思考や行動を知り尽くしているだけかもしれないが。


 でも言い当てられたアリエッタはハッと息を呑む。ギルデロイにだって変化を指摘されたばかりだ。


 表情豊かでないし感情を表に出さないようしていても、絵や言動からも他人に心境が伝わってしまうもの。


 愉しげに新緑色の瞳を輝かせるニーナの視線がいたたまれず、アリエッタはここでも視線を落とすしかなかった。





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