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隠匿の令嬢
第20章 アリエッタの愛




 今にも動き出しそうなレオは上半身が描かれている。


 一般的に背景は一色で描くものであるが、アリエッタのそれは様々な色が使われ、緻密で繊細な模様がレオを取り囲んでいた。


 これがアリエッタの世界──彼女が見ているレオ。


 時間とともに心臓まで止まった感覚に陥る。それが不意に動き出し、一気に全身に血が巡り、身体中が熱くなる。


 肖像画のレオは動き出しそうなのではない。確かに脈付いていた。


 レオの周りに描かれる繊細な模様が血脈のように絡み合い、生命を感じさせる。


 なのに所々に使われる黒が死を思い起こさせ、まるで生まれ落ちてから土に還るまでをひとつの絵で表現しているようであった。


「すごい……」


 キッシュの声が耳を通り過ぎていく。


 けれどその一言がすべてだった。


 それ以上でも以下でもなく、他に言葉が見付からない。


 どんな称賛の言葉を並べ立てようが、陳腐に聴こえてしまう。


 それくらい素晴らしかった。





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