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第14章 【夢から醒めるとき】
『ううん。こちらこそ。ゼリーご馳走さまでした‥あのね、早織ちゃん…良かったら引越し先に遊びに来てね。
迷惑でなかったら…真央ちゃんと、マイコといっしょにごはん食べない?
私、友達少ないから』

早織ちゃんが破顔した。
*****

早織ちゃんと別れ、葵とよく歩いた砂利道を散歩する。
遠くの山で、カラスの鳴き声が聞こえた。

まだ明るい昼下がりでも、じきに日は暮れ夕方が訪れる。
夜がやってくる。
砂利道を振り返った。
見渡す限り、何もなかった。
山と、畑と田んぼと…。
秋の野草がそよそよと風に揺れている。

頬を撫でる風が心地よい。
どこかで煮物を炊きしめるような香りがする。

心は空っぽで、清々しい。
うーんと大きく、伸びをした。
私は自由だ、と実感した。

―さぁ、私には何もなくなった。

いいや、私は元々何も持っていなかった。
昔に戻っただけだ。
18歳、19歳の自分を思い出す。
恐る恐る、隣県に足を踏み入れた頃。
がむしゃに、前を向こうともがいていた頃―

思い返せば、うまくいかないことばかりだ。
ふらふらノロノロと、答えを先伸ばしして…
自分自身から逃げて。
過去に、向き合えなかった。
目も当てられないような、恥ずかしいことばかりだ。
それでも生きてきた。

『“自分自身からは逃れられない”か……』

心が疼いて、立ち尽くす夕方もあるだろう。
なにもかもが嫌になって、眠れない夜もあるだろう。
だけどそれでも眠って日を浴びたら、新しい私になっているだろう。
―朝が始まるだろう。

整理出来ないものは、整理出来なくていい。
爽介への激しい恋心。
葵への名前のつかない感情。
涼平への罪―

色んなものをひっくるめて、《これから》は生きていこう。
“もうどうにもならない”と思った時でさえ、今までどうにかやってきたじゃないか。
“存外人間はしぶとい”と、葵の祖父も言っていたじゃないか。

『《これから》―どこへ行こう?誰に逢って、どうやって生きよう?』

そろそろ目覚めのとき。
【長い夢】の終わりだ―






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