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浮気断定社
第10章 依頼人 高橋 美樹
男はそれに着替えて事務所の扉を開けた。

「あの...」

「ここは探偵事務所です。
 着替えくらいいくらでもありますから遠慮なく」

女は掃除をしながら男のほうも見ずに答えた。

「ありがとうございます」

「珈琲飲みます?」

女は男を見る。

「あ、いや。もう時間がないんで」

部屋を見渡すとソファーに洋輔が寝ている。

「じゃあ、香川さんによろしく」

男は頭を下げて出ていった。

バタンと音をたてて閉まった扉を女は見つめた。

「惚れても無駄だ。

 売約済みだ」

女は洋輔を一瞥した。

「起きてたんですね」

「そりゃそうだろ。
 これだけガシャガシャと音をたてられてゆっくり寝てられるか」

洋輔は大きく伸びをした。

「コーヒーくれ」

「ご自分でどうぞ」

「っち。つめてーなぁ。
 飯田にはあんなに優しかったのに」

洋輔は起き上がるとコーヒーを注いだ。

「で、どう思うあの男」

「ばか正直すぎますね」

「な、良い男だろ」

洋輔はゴクリとコーヒーを飲んだ。
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