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第10章 依頼人　高橋　美樹

「あなたもおひとついかが？」

瑠璃の頭上から華やかな声が降ってきた。

瑠璃は業務に集中していて美樹が近づいたことに気付かなかった。

「いかが？」

少しイラついた響きのある声が瑠璃を美樹に向かわせた。

「ありがとうございます」

瑠璃は立ち上がり菓子箱からひとつ菓子を取った。

「いただきます」

瑠璃は美樹の顔を見たくなくて頭を下げたまま美樹が立ち去るのを待った。

美樹は頭を下げ自分が去るのを待つ女の胸に

<綾瀬>

とあるのを見つけ満足げに微笑んだ。

「いつもご苦労様　綾瀬さん」

皮肉のこもった言葉にも瑠璃は頭をあげようとしなかった。

その後数人にお菓子を配ると用は終わったと
菓子箱を飯田に渡し
美樹はフロアを出ていった。

瑠璃の周りに立ちこめる高級ブランドのオードトワレと
「ごきげんよう」
と華やかに立ち去った女の声が瑠璃を縛る。

ーこれが不倫の現実だ

瑠璃は惨めになりそうな自分を奮い立たせた。