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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。
 
 そんなあたしの当然の帰結を打ち消した者ひとり。


「ハル兄、またここで寝たんだね? 寝るなら仮眠室いきなよ。だめだよ、幾ら徹夜三昧で治療やら研究やらに没頭していても、綺麗に清潔にしなきゃ。ここはしーちゃんのためだけの特別診察室として、僕以外誰も入ってこれない神聖な場所なんだから。毎回こまめに掃除する僕の身にもなってよ」


 保護者のように付き添ったナツがシーツを直しているのを見ると、お医者さんごっこなど不埒な想像してしまったあたし頭を叩いてやりたくなった。

 あたしは12年眠っている間に、世間の毒に汚染されていたらしい。

 こんなこと考えていたとばれたら、無実の罪をかぶせられた怒れるハル兄にどやされる。


 無節操極まりない彼だって、12年も経てば少しはまともになっている。

 うん。多分。……断言できないのが悲しいけれど。


 そう思ってハル兄を盗み見ると、視線がばっちに合ってしまった。ハル兄のやけに艶めいた流し目が、既にあたしに向けられていたのだ。


「……な、なに?」


 極度の動揺に声がひっくり返った。


「本物の医者が、"お医者さんごっこ"なんかするわけねぇだろう?」


 あたしの思考はばればれだったらしい。


「んな可愛らしいプレイ、こんなところでするかよ。どうせやるなら本格的に、洗い流せて消臭の部屋でするよ俺は」


 にやり。

 本物のお医者様が、意味ありげな笑いを見せた。
 

 あ、洗い流せて消臭!?

 なに、この男……どれだけアブノーマルな医者なんだ!?
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