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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
ズボンは足の長さを強調させる細身のジーンズだが、上は黒いサテンのブラウスを第三ボタンまで外し、褐色の逞しい胸には銀の大きな十字架。
長目の前髪をナツ同様、ワックスかなにかで後ろに流し、野生のフェロモンを強烈に撒き散らして、堂々たる貫禄でご登場。
熟した男が持つ、頽廃的なその色気にぐらぐらした。
彼が手にしていたのは、金色に光る"し"の字型アルトサックス。
ハル兄は細長い尖端を、ゆっくりと肉厚な唇で挟み込む。
あたしが好きなタバコに火を付けるときのような、眉間に皺を寄せた……少し苦しげなあの顔を斜めに傾けながら、女体とも形容される楽器を口に咥え、淫らな指を動かして、ナツのピアノと音合わせをする帝王。
全身の肌が総毛立ち、昂奮にぞくぞくした。
……やばい。
ハル兄、その武器は強烈だ。
鬼に金棒、帝王にサックス。
魅入られてしまったあたしに気づいたのか、帝王は流し目を寄越した。
俺を見ろといわんばかりの傲慢さと、俺との情事を思い出せといわんばかりの妖艶さを混ぜて、含んだような笑いを口元で見せると……ハル兄は片手を上げて指を鳴らした。
そしていつの間にやら、白いサテンのブラウス姿で、ハル兄の対となっているナツが弾き始めたのは、先ほどのクラシックではなく……ジャズ。
え、このムードたっぷり、メロディアスな曲は、パパが好きだった……。
『リカード・ボサノヴァ』
そして――
正反対の美貌を魅せる兄弟の演奏(セッション)が始まった。