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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 


 ジャズの代表曲のひとつである『リカード・ボサノヴァ』。

 あたしがパパと聞いていたのは、ドラムやらペースの音やらも入っていて、サックスとピアノという取り合わせは初めてだった。

 ボサノヴァというだけに、体を思わず揺らせてしまうようなバッキングのリズムが命。そこに軽快というよりはしっとりと絡みつくような、哀愁漂うメロディラインがついて、大人のBARにかかって男女のムードを盛り上げているようなそんな曲だ。

 すべてのリズム隊はナツのピアノだけ。不規則ながらも正確な律動に乗り、ハル兄が奏でる艶めかしい音は、本当に鳥肌が立った。

 ハル兄がサックスを吹くとは聞いたこともなく、しかもサックスの生演奏を見るのも初めてのことで。


 苦しげな表情で時折片肩をあげたり、体を反らしたり、逆に前傾姿勢になったり。動けば動くほど艶気を出しながら、メロディラインを静かになぞる姿、あるいはナツのバックに応えるようなアドリブ交えてぱらぱら指を動かしたり、時折肩を竦ませながら掠れたような高い音を響かせる様は、どうしてもハル兄の艶事を垣間見ている気がしてドキドキせざるをえない。


 ハル兄のサックスは、女を誘惑する官能的な性的魅力が壮絶すぎた。

 優しく強く、ハル兄に体を触れられている感覚というよりは、無理矢理快楽を刻みつけられているような……そう、犯されているというような感覚。

 ハル兄の音が仕草が、あたしの体に侵蝕していく――。


 その中で待ちかねていたようにハル兄の目が開く。

 微かに汗ばんだ髪が額に垂れた中、あたしに向けられたとろりとした艶めいた目は最早凶器。

 絡み合った視線は、強い愛撫以外のなにものでもなく、体に走る甘い痺れに思わず声を上げそうになり、ぐっと腰にくるものに驚いて、その場でへたりと座り込んだ。


 甘やかな眼差しを依然向けたまま、どうだ参ったかと言わんばかりの圧倒的な魅力を見せつけながら、帝王が奏でる至上の音楽は続く。
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