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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 


「こ、"恋人"役だから……ね? ハル兄に夢中なの~」

「………」

「ハル兄好き好き好き! あたしの愛でED回復しようね」

「………」


 絶対、この顔は信じていない。

 逆に誤魔化そうとなにか言えば言うほど、不機嫌そうになっている。


 そりゃそうだ。あたしはアドリブ超不得意の大根役者だ。


 どうしよう、どうしよう。


 そんな時、足下に落ちているバックが口が開いているのが見えた。

 赤い巾着が転がってる。


 あれは確か夕子さんが、ハル兄に渡すように言われたもの……。


「ハ、ハル兄、お菓子食べよう? ね?」


 Let's 話題のすり替え。


 全裸のままでなんとか手を伸ばしてそれを掴めば、中から出てきたのはおいしそうな一枚のクッキーだった。


「はい、あぁん」


 あたしをじっと見つめたまま、まるで動かないハル兄のお口は開かない。

 じろりと逆に睨まれて。


 クッキーを差し出した手が宙に泳ぐ。

 よし、じゃあクッキーであたしのお口をチャックしよう。


 クッキーを口に入れたあたしが、鳥のようにカジカジと僅かずつ香ばしい味のクッキーを囓って会話拒否をしていれば。


 バクリッ!!



「!!?」


 それはまるで、猛獣が肉の塊にかぶりつくように。


 ハル兄があたしの目を見つめたまま、口に入りきらない分のクッキーに食らいついて、ばりんばりんと勢いよくかみ砕いた後、あたしにキスするようにして、あたしの口内に残っているものもすべて舌でかき集めて、嚥下してしまった。


 全部、食べられた。お腹、空いていたんだろうか。

 甘々でも、野生児だった。


 さて、もう話題をそらすことができなくなってしまった。

 それをハル兄はお望みだったのかもしれない。


 空気が、あたしがおかしなことを口走った直後と同じものになっている。

 ハル兄は逃してくれる気などないようだ。

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