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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 

 あたし、なんで浴室にいるのだろうか。

 そんな疑問よりも豪奢な作りに、目を奪われる。


 あたしがハル兄と共に入っているのは、円形の浴槽。

 とても大きくて、これはもはやプールだ。

 ばしゃばしゃ思いきり泳ぐことができるレベルだ。

 洗い場もすごい大きい。


 一瞬ここがどこだか忘れかけたが、帝王ホテルの超VIP部屋のものだと思い出せば、納得した。


 ああ、そんな浴室の作りよりも、なにより驚いたのは、ここが一面硝子張りになっていて、ここからも東京の夜景が見えることだった。


 そして今、星と月がくっきりと見えている。

 天地、天然と人工の照明が併合された幻想的な世界が、スポットライトを浴びた湯に溶け込もうとする様は、幻想的で美しい。


 つまり、ムード満点の浴室なのだ。

 そこにいるのは、あたしはハル兄だけだ。


 ……あたし達だけ。


 
「シズ」



 あたしはハル兄の伸ばした足の上に、真向かいに座らせられている。

 急に意識してしまい、そそくさと少し離れたところに移動しようとすれば、水音をたててハル兄の手が伸び、同じ位置に固定される。


 広い浴槽でのリラクゼーションを完全無視して、あたしは浴槽のごく一部に、身を縮こまらせている。

 なにこの不条理さ。


 そして真向かいから、いかんなく発揮されるオスのフェロモン。

 ……のぼせそうになる。


「目覚めたな?」

「う、うん?」


 するとハル兄は、憮然とした顔を一気に緩ませて、嬉しそうに笑うと、両手できつくあたしを抱きしめてきた。
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