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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。

「あたしは、こっぱずかしい"しーし"なんて呼び方を、初対面の方に許可していないんだけれど」

「初対面じゃないよ、幼なじみだよ!? 生まれながらに赤い糸で結ばれた、乙女が大好きな恋愛王道パターンを踏んでいるんだよ!?」

「男の貴方に乙女を語って貰いたくはないんだけれど」


 しかし、その台詞……どこかであたし、吐いたような。

 ああ、そうだ。……ナツに。せがまれてうるさかったから、棒読みで読んだだけだ、雑誌の記事の見出しを。確か、幼なじみの恋愛を主軸にした恋愛映画の紹介だったような。


「くっ……!! 僕を信じないんだね、だったらこれ見てよ。しーしをドライブに連れようとして頑張って仮免4回、本試験3回以内で取れた運転免許証!!」


 仮免4回、本試験3回以内……。

 どうにかこうにか取れたらしい免許証を、黄門様の印籠の如く得意げに突きつける中には、カメラ目線ばっちりの芸能人風のコイツが映っている。

 いい男は、証明書の写真も光り輝くものらしい。


 名前、住所、誕生日。驚くことにナツと同じだ。

 あれ、免許って小学生はとれただろうか。

 いや待てよ、この取得日……。


「この西暦って、12年後じゃん」


 これは未来の免許!?

 それとも、根本的間違いを犯した偽造免許?


 ナツがテレビをつけた。

 ニュースがながれる。キャスターもテロップも……やはり12年後の数字。


――えっ?



「しーしは、眠っていたんだよ。12年」


 甘い色彩に包まれた美男子は、辛辣な言葉を淡々と述べる。


「嘘……」

「嘘じゃない。だから僕は今19歳。17歳で眠ったしーしより2つ年上」



 ああ、神様。マジですか?


 12年という年月は、ハナタレデブをここまで変えるんですか?


 いや問題はそこじゃない。

 いやいや、そこも問題だけれども。


 12年――あたし、眠っていたんですか?


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