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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 


 ナツの両頬に手を添えて、ナツの顔を上げた。


 はらはらはら……。


 伏せたままの長い睫毛を濡らして、頬に伝い落ちる無垢な雫。


 男だから女だから。


 そんな性別は関係なく、ただ息を飲むほどに見惚れる……美しく、そして切ない一場面。

 この子の純粋さは、きっとあの……ハナタレ姿からなにひとつ変わっていないのだろう。


 どんなにブラックリストに載ろうとも。

 どんなに変態であろうとも。


 きっとそれを含めて、ナツの……純粋さのひとかけら。


 この子の涙をみたら、自分がいかに穢れているのか思い知らされるけれど、それでもあたしを一心に慕ってくれるのならば、あたしはその心を汲み取りたいと思う。


 ナツのいじらしさが、愛しくて可愛くて、胸がきゅうきゅう音を立てるんだ。



 なんでナツに、別の本命がいると思えたのだろう。

 なんで否定する事実確認をしなかったのだろう。

 なんでいつものナツの言葉を信じられなかったのだろう。


 すべては、あたしがナツを信じていれば、こじれずにすんだこと。

 今頃、ナツもあたしも笑顔でいれたのに。


――俺はナツのダチなんだよ。あいつのことは俺が一番よくわかっている。あいつは、あんた以外に心奪われる男じゃないんだ。


 ナツのことを、クソメガネの方が信じていた。

 ……なんで今頃、ナツを信じ続けたクソメガネに妬いてしまうのか。



――俺に、ナツを奪い返してこいとか、実際のところをナツに確かめてこいくらい、いつものあんたなら言えるだろう!!


――あんたはいつもガキ臭いのに、なんでそういう時ばかり物わかりいい大人ぶるわけ!?


 その通りです、モモちゃん。

 あんたに借りひとつ作りました。


 クソメガネとはもう言わないようにします。

 感謝を込めて、モモちゃんと呼びます。


 あんたはさすが、ユリの弟だよ。

 あたしのライバルにして、理解者だよ!!



――ナツが欲しいんだろ!? だったら簡単に他の女に渡すな!!



 静かに――、

 ナツのココア色の瞳があたしと視線を合わせてきた。


 濡れたその瞳は揺れていて、なにかを訴えるように切なく細められ、色味を失った唇が、震えるように戦慄きながら動く。



「しーちゃん、好きです……」

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