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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘

「……ナ……ツ……ふ……ぁっ、んん……」

「はぁ、はぁ……んっ……しーちゃん……んんっ」


 互いの名前を呼び合い、激しく相手を貪り合う。

 互いの体を弄る手は、キスに反して穏やかで優しい。


 やめられない。

 ナツとのキスがとまらない。


 刹那の時間の逢瀬のように、性急に求め合うあたし達。

 ……もっと深く交わりたいと互いに体を揺らして体を擦りつけるように強く抱き合っているのに、キスの中毒者(ジャンキー)の如く、そこから先に進められない。


 ふたり肩で息をしながら、離れれば吸い付き……口腔内の舌がもうどちらのものかわからぬほどに麻痺してしまっている。

 欲情がとまらず、互いの蕩けた眼差しを見て、またキスをしてしまう。


 ナツに引き寄せられる――。


 ナツから目が離せられない。


 これは愛?

 母性本能からくる保護欲?

 それとも淫魔の食欲?


 能動的というよりは、強い力に受動的になる激しい衝動。


 ハル兄が欲しいと、自分から動いて求めた時とはまた違う、否応なしにナツに引き摺られて、深層から自然に芽生える強い欲求。


 これはなに?

 繋がれた枷を強く引かれるような、この強制力はなに?



――そんな健気でいじらしい奈都の姿見てると、私も波瑠も……純粋なあの子を応援したくなるのよ。決して"運命"めいた強制的な理由だけではなく。


 "運命"――?


――それを理由にしたくないのは、奈都の……男としての意地だと思う。


 それってなに?


――波瑠もわかっているのよ。静流ちゃんは、奈都を選ぶことに。
 


 ハル兄ならわかるの?

 わかるから……あたしにナツを勧めるの?



 ぼんやりとした頭に、ぐるぐると色々な声が廻る。



――お前は俺に揺れている。

――しーちゃん、僕を見ていて。


 わからない、あたしの心が。

 ふたりを求める心は強すぎて、この気持ちに名前がつけられない。


 ぐらぐら。

 くらくら。


 眩眩……。



「しーちゃん……」


 だけど今。

 あたしは、この声に引き寄せられたい。


 今はただ。

 何も考えずに、あたしはこの声を――。
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