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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「しーちゃん、時間はまだまだある。新記録に挑戦しようね?」


 そうナツは言うけれど。


「………。着くまで、こうしていたい」


 ただ静かに密やかに。

 ナツに抱きついていたい気分になった。


 あたしは両手でナツをぎゅっと抱きしめながら、


「……ナツは嫌?」


 そう見上げたら、ナツは真っ赤な顔をして片手で顔を覆った。

 そして指の間から、ちらりとあたしを見る。



「えっちなしの僕といて……いいの?」


 おかしなことを言い出すナツ。

 まるでセックスしか能がないように聞こえるじゃない。


「いいの。なんかこうして、くっついていたい。ナツの体温を感じたい。互いの熱を分かち合って幸せ感じたい」


 そう素直に言えば、ナツが俯いた。


「見ないでね。今の僕を見ないでね」


 そしてナツはあたしを強く抱擁した。

 あたしの肩に顔を埋め、そのまま……か細い声で囁いた。



「しーちゃん……好き。本当に好き」


 切なくなるくらいの声音。


「僕の……しーちゃん。僕だけの……」


 消え入りそうなその声を聴きながら、いつしかあたしはとろりとろりと睡魔に襲われる。


 心地よいナツの声音。

 胸がきゅぅんとする切ない声音。


 抱き合えば重なる、心臓の音。

 とくとく、とくとく。



 まるでそれは昔から、ひとつのものであったかのような錯覚を覚えながら、あたしは静かに微笑んだ。


 ナツの熱さに包まれる、幸福感に酔い痴れながら――。




 ……そのすべてを、


「……あのひと、あんな風に乱れるのか。

……ああ、なに考えてんだよ、俺。くそっ。大体ナツの……だろ!? それに俺は、女なんて……」



 モモちゃんが熱を出したような赤い顔をして、煩悶しながら見ていたことも知らずに。
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