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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
 

「ひぃぃぃぃぃぃっ」


 ハル兄の唇から離された可哀相なあたしの手の甲には、真っ赤な歯形がついている。それでもハル兄は手を離そうとせず、歯をがちがちさせている。


 なんて容赦ない、獰猛な動物なんだ!!


 そう涙目で訴えるあたしには、文句あるか?とでも言いたげな帝王様の上から目線にびびり、声をあげることができない。

 こんな帝王モードの時には、なにを言っても無効化されるだけではなく、十倍以上に反撃されるのが常だ。

 そんなあたしを見て取った兄は、ふっと目許を緩ませると、歯形をつけた手の甲に舌を這わせた。


「なっ……!」


 その切れ長の目を挑発的にあたしに向けて、時折目を伏せるようにして顔を傾けて、うっとりとした顔で舌を這わすその姿は、この上もなく扇情的で。舐められている手も、見ているだけの身体も、その細胞が奮えて息が詰まる。


「……そんな顔で俺を煽るな。ここでヤラれたいのか?」


 そんなハル兄の意地悪げな声に我に返ると、ハル兄は手を繋いだまま、また歩き出した。

 散々にハル兄に遊ばれているあたしは、呼吸を静かに整えながら、ハル兄に連れられ歩いていった。


 やがて景観は、庶民は手の届かないような帝王様級の和風宿泊施設に相応しい、より一層極上な和の佇まいを見せ始めた。


 壁や歩く廊下は透明硝子で、厳かな外庭との境界がよく見えない。

 透明な床の下には水紋のように広がった砂利があり、色取り取りの花々だけではなく、やがてちろちろと川のようなものまで出てきて、自然の中を宙に浮いて歩いているように錯覚してしまう。

 赤い欄干の半円状になった橋を越えた先が、ハル兄が連れようとしている、『特別室』とプレートが掲げられた、若竹色の壁をした部屋らしい。

 茶色い木の板の扉を横に開いて中に入れば、扉は背後で自動的に閉まり、鍵がかかる音がした。
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