この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
可愛いヒモの育て方。
第6章 いざ、温泉旅行へ!
自販機の陰から盗み見ると、見慣れているはずの彼の横顔が見える。私の知らない顔だった。
「――あのさ」
相手の言葉を遮るように、麻人はそう発した。
「そんなことで、わざわざ電話してこなくていいから。あんたのやることに、俺が口出ししたことあった? 好きにしていいよ」
通話はそこで終了したらしく、麻人は携帯をポケットへとしまった。
好きにしていいよ。それは普段から、麻人がよく使う言葉だった。最終的な選択を、相手に委ねる時に。だけど今のは違う。声のトーンやニュアンスでわかる。
拒絶。殺伐とした、ただ一方的な。
通話を終えた麻人が歩き出すのが、スリッパの音でわかった。だけど私は自販機の横に立ちつくしたまま、動けずにいた。
「友梨香さん?」
はっとして、我に返った。私の姿に気付いた麻人が、驚いたように立ち止まって私を見ている。
「部屋……、わかんなくなっちゃって」
我ながら、かなり苦しい言い訳だった。浴場からは戻れてたわけだし、自販機の陰に隠れるように立っていたんだから、通話を盗み聞きしていたのもバレているはずだ。