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可愛いヒモの育て方。
第14章 就活
就活だって、ここでするって言ったのに。
「最初から、ネコみたいなやつだったもんなあ」
いつの間にか家に居ついて、自分ちみたいに上がりこんできて。妙に人懐っこいくせに、自分のことはあまり話さなかった。束縛されるのを嫌がるし気まぐれで飽き性なところもあるくせに、いつも優しい。……変なやつ。
私はキッチンに行った。ガスコンロに置かれた鍋。蓋を開けて中を覗くと、ビーフシチューだった。夕飯も、ちゃっかり作ってくれてるし。
「こんな食べきれないっつの……」
鍋いっぱいのシチューは、一人で完食するには多すぎる。いつも麻人と二人で食べていた量だ。
「もう来ないくせに」
――むかつく。
私はその場に、ぺたんと座り込んだ。フローリングは冷たくて、軽く身震いしてしまう。
本当はわかっている。悪いのは麻人じゃない。就活は仕方がないとだし、他県でしようとどこでしようと、私に口を挟む権利なんてない。私の家に来れなくなったからって、私にそれを責める資格もない。恋人でもなんでもないのに、今までそうしてた方がおかしかったんだ。
好きだと気づいてからも、関係を変えようと努力しなかった私に、文句をいう権利なんて一つもない。
頭ではわかるのに、こみ上げてくる激情を抑えられない自分が、何よりむかつく。
私は目を閉じた。目頭が熱くて、じんわりと痛んだ。麻人の顔が、脳裏に焼きついて離れない。
私はしばらく、冷たいフローリングに座り込んだまま動けなかった。