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可愛いヒモの育て方。
第15章 喫茶店
カウンターの奥から、カオリさんが覗いているのが見えた。
ずっと旦那を取ってしまって、申し訳ない気持ちになる。ペコペコと頭を下げると、奥さんは屈託なく笑いながら、ありがとうございましたと頭を下げた。
なんて懐の深い人だ。マサルは私のことを、なんていうつもりなのか少し気になった。
喫茶店の外へと出る。
「あ、持っていけよこれ」
「え?」
振り向くと、マサルがチョコとバニラのクッキーを一袋ずつ、それからカモミールティーと書かれた茶葉を持って立っていた。
「おまえんとこの店長さんと、高校生くんによろしく言っといて」
「いや、悪いしこんなに! てか麻人高校生じゃないって!」
「いいよ、持ってけ。ついでにここの喫茶店広めといて、クチコミとかで。ちょっと赤字続きでヤバいんだよねー」
まあ、こんなに暇じゃ仕方ない。
「……わかったよ。頑張って」
「おう」
マサルは踵を返し、喫茶店の中へと戻ろうとした。
その背中に、声をかける。
「ーーありがとう」
「おう」
いろいろ貰ったお礼もあったけど、別の意味も込めていた。マサルはそれを知ってか知らずか、振り返りもせず中へと入っていく。
「ありがとう、か」
まさか、その言葉でサヨナラするとは。
ここへ来た時は足どりも重かったのに、今はとても晴れやかだった。それがなんだか滑稽で、少し笑った。
私も大概、ゲンキンだなぁ。
マサルに会いにきて、良かった。じゃなきゃうだうだと、昔の感情を引きずったままだった。
同時に、帰ってやりたいことが一つだけできた。
私は軽く伸びをした。足どりも軽く、駐車場へと向かった。