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可愛いヒモの育て方。
第19章 キズ
季節はもう春なのに、夜はまだ冷える。ティーシャツの上にパーカーを羽織って外に出ると、肌寒かった。
心臓の鼓動はおさまらない。
私は車に乗り込み、麻人が来てと言った総合病院に向かった。走行中、何度も麻人の顔が頭にちらついていた。早く顔が見たい。
信号待ちの時間さえ待ちきれず、時計や外を馬鹿みたいに何回も確認した。
ようやく病院に到着し、麻人に言われた入り口から中へと入る。普通の面会時間はとっくに過ぎていたため、受付の看護師に事情を話し、麻人の母がいるという個室に早足で向かった。
誰もいない、白で統一された空間に私の足音だけがかつかつと響く。
二階へ続く階段をのぼり、長い廊下を進んでいくと、人影があった。
「麻人……っ!」
私の声にぴくりと肩を震わせ、麻人が顔をあげた。かけよる私の姿を捉えるなり、人差し指を唇に当てて、しっ、と合図した。
「ここ、病院……」
言いかけた麻人の体を、構わずきつく抱きしめる。腕に馴染む感触と体温に、ほっと胸を撫で下ろす。いっきに安心感がこみあげてきて、また泣いてしまいそうになった。