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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
     【四】

 お民は茫漠とした視線を泳がせた。午前中は、こうして何をするでもなく家の前に座っていることが多い。ゆるりと視線を動かすと、小さいけれど、それなりに手入れされた庭が見渡せる。
 もっとも、家の前には特に生け垣や区切りになるようなものもなく、どこまでが庭やら判ったものではないが。お民が〝庭〟だと思っているのは、家の前に聳え立つ枇杷の樹と、それに並ぶ橘の樹が見える辺りまでだ。
 見ようによっては、この大きさの違う二本の樹は仲睦まじく寄り添い合って立っているように見えなくもない。この二本の樹を見る度に、お民は良いなと思うのだった。
 自分と源治もこんな風にずっとずっと寄り添って生きてゆけたなら良かった。でも、お民はもう源治の側には戻れない。
 お民は丸い腹部を愛おしげに撫でた。腹の壁を胎内の赤児が元気に蹴っている。その振動がお民にも伝わってきて、お民は知らず微笑んでいた。着物を着ていれば、まださほどに目立ちはしないけれど、お民の腹も大分膨らんできた。
 風呂に入る時、裸になれば、湯を弾く白くすべらかで豊満な身体は、そこだけ丸くなだらかに膨らんでいる。腹の赤児が健やかに成長している証だ。それもそのはずで、腹の子は直に六月(むつき)めに入る。
 この家に住むようになって、はやふた月が経とうとしている。江戸から離れた近在のこの村は、鄙びた貧しい農村であった。大人から子どもまで合わせても総勢五十人にも満たない。小さな村とひと口に言っても、かなりの広範囲に渡って人家が点在しており、お民の住むこの家は、村外れともいえる場所にぽつんと一軒だけ離れて建っていた。
 江戸を発ち、東へ主街道を進み、二つめの宿場町に至る手前に枝道がある。その枝道を横にそれると、更に少し歩いた先に二股に分かれた小道が見えてくる。その左側の道を真っすぐ突き進んだ先に、螢ヶ池村はあった。
 右へ進めば、ほどなく山に分け入る山道に繋がる。
 左の小道を歩いてゆくと、最初に見えてくるのが満々と水を湛える池、通称螢ヶ池だ。
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