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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
     【四】

 どうやら浅い微睡みにたゆたっていたようだ。お民はうっすらと眼を開く。
 ここは一体、どこなのだろう。ゆるりと視線をめぐらしてみる。まるで細い一本の銀糸を思わせるような鎖が四方に網の目状となって張り巡らされており、その銀の糸の至る所には露の煌めきを思わせる小さな光の粒が宿っていた。
―きれい。
 お民は思わず眼を見開き、刻一刻と様々な色に染まり、光り輝く露の雫を眺めた。
 が、次の瞬間、烈しい驚愕と衝撃が襲った。
 きらきらと輝く光の雫に触れようとして差しのべた手のひら、いや、腕そのものが微動だにしないのだ。
―何故? どうして?
 著しい恐慌状態に陥りながら、お民は懸命に手脚を動かそうとするが、一向に動かない。
 ふと自分の手脚を眺めやり、お民は絶望の呻きを上げた。煌めく光の粒を宿した銀の糸がお民の身体中―手脚に絡みついている。
 いや、糸ではない、これは鎖だ。頑丈な、鋼(はがね)の細い鎖がお民の身体中に纏いつき、離れない。何とか縛(いまし)めから逃れようともがけばもがくほどに、鎖は執拗にお民の手や脚に絡みついてきて、これでもかといわんばかりに締めつけてくる。
 シュルル・・・という不気味な唸り声が低く耳に聞こえ、お民は我に返った。わずか前方に、巨大な―大の大人数人ほどの大きさをした蜘蛛が待ち構えていた。
 まさか、この銀の鋼は化けもののような蜘蛛の巣?
 そう考えた途端、戦慄にも似た烈しいおののきと恐怖がひたひたと押し寄せてきた。
 巨大蜘蛛は低い咆哮を上げつつ、じりじりとお民に向かって間合いをつめてくる。
 お民はあまりの怖ろしさに、このまま意識を手放してしまいたいとさえ願った。
 と、お民は、愕然とした。
 真正面から次第に近づいてくるお化け蜘蛛の顔は、何と人のものだ! しかも世にも二つとない怖ろしげな人面蜘蛛の顔は他ならぬ石澤嘉門のものだった。
 夜毎、お民の身体を犯し、責め立てる男。その男と瓜二つの顔をした蜘蛛が囁く。
―俺の子を生め。そなたは、俺の子を生むために、ここに連れられてきたのだ。
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