この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第5章 伍
     【伍】

 初夏の爽やかな風がそっと頬を撫でて通り過ぎてゆく。その拍子に、お民の額にかかったわずかな前髪が揺れた。
 お民が石澤嘉門の屋敷の懸かり人となってから、はや四月(よつき)が流れた。この屋敷に上がった日には満開に咲き誇っていた紅梅の花が散り、水無月に入った今は代わって鮮やかな朱色の花を石榴の樹が咲かせている。
 この樹が実を結ぶのはまだ先のことで、秋まで待たねばならない。しかし、眼にも眩しい朱(あけ)の花をいっぱいつけた今の眺めも、いかにも初夏のこの季節にふさわしく、いつまで眺めていても飽きるということがない。
 石榴の実はよく知られているように、大ぶりでよく熟すと割れ、中から紅瑪瑙のようなつぶらな実が現れる。むろん、紅い小さな実は食用にもなる。
 子どもや安産の守護神鬼子母神がこの実を手にしていることから、石榴の実は多産や子孫繁栄、安産の守り神として信仰されている。
 石榴に関していえば、花よりもこの実の方が一般的には有名だ。  しかし、よくよく眺めてみると
、小さな朱色の花を無数につけたその樹の佇まいは妙に人の心を惹きつける。
 お民はもう朝からずっと、この花を見ていた。初夏のこととて、朝夕はまだひんやりしているものの、日中は汗ばむほどの陽気になる。まして昼下がりの今は、こうして部屋の障子戸を開け放していても、十分快適に過ごせた。
 吐き気は依然としてまだ続いていたけれど、ずっと横になってばかりいるのも退屈になったので、思い切って起きることにした。
 そろりと上半身を起こすと、また、胃の腑の奥から不快感がせり上がってくる。お民は軽く咳き込みながら、厭な吐き気が治まるのを辛抱強く待った。
 この頃、どうも体調が良くない。
 ひと月ほど前から突如として始まったこの吐き気は、今日までずっとお民を苦しめ続けてきた。
―私は一体、何の病気なのだろう。
/217ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ