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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第5章 伍
 ちょっとした体調の変化などは、環境が著しく変わったこと、意に添わぬ日々で鬱々と暮らしていることなどによるもの―と、幾らでも言い訳はある。
 が、数日経っても、いっかな治まる風のないこの病は、単に体調を崩したからのみとは考えがたかった。
 もしかしたら、自分は何かの病なのかもしれない。それも、胃の腑を病んでいるだろう。
 取り返しのつかない、治る見込みのない病だとしたら、そう考えただけで、お民は恐怖に気が狂いそうになる。
 もとより、嘉門によって陵辱され続けたこの身だ、生命が惜しいわけではない。しかし、もし、ここで生命尽きるようなことがあれば、源治に二度と逢うことは叶わなくなる。
 こんな有り様では一体、いつ源治の許に戻れるのか、否、果たして本当に戻れるのかどうかすら疑わしい。一日一日が十年のように思えてならない。
 逢いたかった。源治に、逢いたい。
 頑固な吐き気は、お民を始終苛み、この頃では三度の飯もろくに喉を通らなくなり、お民はこの屋敷に来たときよりは、一回り痩せた。嘉門の寵愛を受けてよりいっそう艶めいた美しさが、かえってやつれたことで際立ち、凄絶さすら漂わせている。
 ここ半月もの間は寝たり起きたりの生活で、床の中にいるときは、いつもこうやって庭を眺めてぼんやりと過ごしていた。
 咲いては散ってゆく花をここから眺めながら、お民はずっとただ一人の男のことを想い続けているのだ。ただひたすら源治に逢いたいと願った。
 ろくに食べていないため、体力そのものもなくなってきている。一人で立って歩くことすら、ままならない有り様だ。
 それなのに、嘉門は今でも変わらず毎夜のように訪ねてきて、お民を抱く。これほど衰弱しているお民を見ても、医者に診せるわけでもなかった。
 情事の最中に烈しい嘔吐感に襲われたお民を容赦なく扱った。嘉門の身体を押しのけて部屋の隅へ這っていって咳き込み続けるお民を、乱暴に褥に引き戻したことさえある。
 嘉門にとって、自分は本当に単なる慰みもの、快楽の対象でしかないのだろう。最初からこの男に何を期待しているわけでもなかったけれど、やはり、自分がただの性欲のはけ口としてしか見られていないと思うと、辛くやり切れない気分になった。
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