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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
 源治の優しさが身に滲みた。そう、源治はいつでも〝待つ〟と言ってくれている。兵助を喪ったときも、お民のその哀しみが癒えるまで待つと言い、石澤嘉門の許にゆくときも、お民が無事年季が明けて戻ってくるまで待つと言ってくれた。
 今でも、源治はお民の心が落ち着くまで待つと言う。
 でも、お民の心はいつだって源治一人のものだ。もし、お民の心ではなく身体が他の男を忘れられないのだと源治が知れば、その時、源治はどうするだろう。
 今までも薄々気付いてはいても、それはあくまでも推測の域を出ない。いや、敢えて気付いていないふりをして、お民と同様、現実から眼を背けているのかもしれない。お民自身、自分が心では源治を想いながら、嘉門と過ごした夜の記憶をいまだに引きずっている―そのことを自覚しながらも、けして認めようとはしていない。
 認めれば、すべてがそこで終わりになる。そんなふしだらな女が源治の側にいるわけにはゆかない。その事実を認めてしまえば、お民は源治と別れなければならない。それが自分の我が儘だと知りつつも、お民は源治の側にいたくて、知らぬふりを通しているのだ。
 源治がこの怖ろしい事実がまさしく真実なのだと知れば。流石に、懐の深い男気のある彼でも、そんなふしだらな女を傍に置くような―ましてや女房として一つ屋根の下に暮らそうとはすまい。
 源治に嫌われることを考えただけで。お民は怖ろしさに気が狂いそうになってしまう。
 だから、言えない。けして、この胸の想いだけは言えなかった。
 すっかり晴れ渡った夜空に、煌々と輝く上限の月が見える。その月を取り囲むように星々がひしめいていた。
 それぞれの想いを胸に、二人は黙り込んだまま月の照らす静かな夜道を歩いていった。
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