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喘ぐなら、彼の腕の中で
第5章 忘れさせて


* * *


─── 4月下旬でも、夜になれば風が冷たい。

お店を出てわざと遠回りしながら、駅まで続く道をトボトボと足を進める。

今年初めは、都心でも雪が降るほど寒い日が続いていたけど
芹澤さんと過ごした日々はいつもキラキラしていたから、心は常に温かかった。


「………」


ドクドクと不穏な音が、全身で波打つように鳴り響く。


“ 亜美を泣かせないでください ”


私の言葉で、芹澤さんから笑顔が消えた。

だけどお互い何も会話をすることなく、お店の前で別れて
私は暫くその後ろ姿を見つめていた。


「……我ながらよく言えたもんだわ」


無意識に口から出たわけだから、ちゃんとそう願っているんだと思う。

だけど……本当は亜美の為じゃない。

芹澤さんは私を好きだと言ったけど、それを鵜呑みにして喜ぶほどバカでもない。


………別れを告げたのは

割り切ることが出来ないと思ったから。

気持ちが無いのに、傍にいるのは辛すぎて

私には耐えられない。


「………っ」


大通りに出る手前で、足を止めた。

痛くて、痛くて……もういっそのこと消えてしまいたい。

この気持ちを静めてほしい。


………誰でもいいから

行き場を見失った想いを救ってほしい。



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