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喘ぐなら、彼の腕の中で
第8章 2人の夜


「……悪かった。
もう、帰るから……あぁ、じゃあまた」


ハンカチで押さえた目をゆっくり開くと、裏口の方から莉央が戻ってきた。

手に財布を持っていて
……あ、今日は私に奢れって言ってたのに……


「お前、顔」


え?
かお?

隣りに並んだ彼は、座らず上着とカバンを手に取ると、冷たい目で私を見下ろした。


「泣いただけでよくそこまで崩せるな。
芸術的にブサイクになってる」

「………!!」


な、なんですって!?
バッグの中に手を突っ込んで、慌ててハンドミラーを開ける。


・・・う゛

アイシャドウ・マスカラ、全落ち……


「……酷い」
「事実だろ。つーかぐずぐずするなよ」
「えっ?」
「さっさと立て」


ちょ、ちょっと待って……!

BARの出口に向かった莉央の後ろ姿を、慌てて追う。

腕時計を見た。
深夜2時半だ。

まだ始発は動かない。


「……どうするの?」
「タクシー拾う」


えっ!?


「散々俺の貴重な時間を使いやがって。
今から俺の言う通りにさせるから」



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