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吼える月
第30章 予感
 

「は!? なに言ってるんだよ。猿が好きなんだろう!?」


 ユウナと恋愛話をしていたイルヒにとっては、寝耳に水。

 折角ふたりにして、ユウナとサクを両想いにさせようとしていたのに、なにか根本的なものが変わってきてしまっている――。


「おいこら、それ以上言うと、テオンに悪口を言うぞ!」


 さらに問い質そうとしたイルヒを止めたのは、サク。

 これ以上突き詰められても、ユウナとの温度の差を突きつけられて、心の傷が抉られるだけだ。


「!!!? やだよ、そしたらこれからの旅、気まずいじゃないか」

「別に、俺達は気まずくねぇぞ」

「猿じゃないよ、あたいとテオンの話!」


 サクは訝しげに、キーキー叫ぶイルヒを見る。


「……あれ、テオンがこれから俺達と緋陵に行くの、お前知らなかったっけ?」

「知っているよ、だから旅の間気まずくなるのは嫌だと……」


 サクの眉間に皺が寄る。


「……お前は、留守番だぞ?」

「ええええええ!?」


 イルヒは、心底驚いたような声を出した。


「当然だろうが。遊びに行くんじゃねぇんだぞ!?」

「知ってるよ! イタ公ちゃんを助けるんでしょう!? あたいだってイタ公ちゃん好きだし、シバも行くのにあたいはなんで駄目なのさ!」

「シバとお前を同列にするな!」

「女の国なんだろ! あたいだって役に立つよ!」

「お前のその顔でか!」


 翳った顔をしたままのサクは、無理に明るく努めていた。

 ユウナに恋愛感情がないとはっきりと言われたことで、心にまたたくさんの深い棘が刺さった痛みを堪えながら。



「一緒に行けばいいじゃない」


 イルヒに助け船を出したのはユウナ。


「あたしもイルヒと一緒に居たいわ」


 ユウナは、イルヒにもう少し話を聞いてみたかったのだった。

 なにか、自分が肝心なことを忘れている気がして。
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