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吼える月
第33章 出芽
 


「ん、なあに蠍ちゃん」


 ユエが突然そう言ったのは、蠍の鋏が、ちょんちょんとユエを突っついたからだった。軽くであれば突いても怪我はないらしい。


「どうした、チビ?」

「あのねぇ、ふたつのところになにか文字が書かれているみたい。とっても古い文字みたいだから、読めないんだって」

「蠍が文字を読めるのもどうかと思うが、ラックーは文字わかるか?」

『我にわかるものであれば。まあ、人間の作ったものであるのなら大概に』

「よし。テオン、お前はどうだ?」

「本で見たものであれば大概に」

 テオンも胸を張って、ラクダと同じように答えた。

 多くの書物から得た知識は、テオンの自信になっている。


「よし、じゃあ……」


 サクの続きを、ユエが無邪気な顔で遮った。


「サクちゃんは? 大きいから読めるよね? 頭がいいお父さんはそういうの読んでいたんじゃなかったの? 武神将なんだし」


「……チビ、俺は……」

 サクが涙目で苦しそうに顔を歪めた時、ユウナがにこやかに答えた。そう、いつも通りに。


「ユエちゃん、サクは人間の言葉で書かれたものも怪しいわ」

「姫様!」

「やっぱりサクちゃんお馬鹿さんなんだ~。だったら、サクちゃんが駄目でも、頭がいいユエなら読める!」

「ありえねぇ」


 するとユエはぷっくりと頬を膨らます。


「ユエは読めるもん、読めるもん!」


 サクがため息をつきながらユエの元に寄り、襟首掴んで宙にぶら下げながら言った。


「時間が惜しい。二手にわかれる。チビ、もう一匹蠍を呼べ」

「無理~。ユエの言うこと聞いてくれる蠍ちゃんは、この蠍ちゃんだけだもん。一緒に行こうよ~」

「はああああ!? 一匹だけ!?」

『イーヒッヒッ。ほら見ろ、蠍と仲がいいのは我の方……』


 ぴぇぇぇぇぇ!!


「ワシ、お前もわかってきたな」


 ぴぇぇぇぇ~。


「だったらラックー。お前なら呼べるのか?」


『然り』


 勝ち誇ったように言うラクダは、顔を空に向けて、ひぇぇぇぇんというのような泣いているような、頼りなげなおかしな声を出した。

 ざざあ!


「うおっ!」


 思わずサクがよろけたのは、サクのすぐ近くに蠍が出現したからだ。
 
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