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吼える月
第33章 出芽
 

「本当に人の言葉を理解しないチビだな。お前とラックーは生きている年数が違うんだよ。今はラクダでも、朱雀というのは凄い年数を生きているんだ。だろう、ラックー」

『そうだ。我はこの倭陵が出来る以前から生きている』

「ほらな。つーことは五百歳以上になっているんだぞ」


「……サクちゃん、朱雀だって信じているんだ?」

「ラックーがそう言うからな」

「最初から?」


 ユエは手足を止めて、じっとサクを見つめた。


「いいや、怪しさ満点のこいつが聖なる神獣と思えるか? だが今はラクダの中身がたとえ違うものでも、前に進まなきゃならねぇんだよ。こいつがなにかを知り協力してくれるというのなら、俺は信じたいんだ。それくらい、当初の予想を裏切り、この砂漠にはなんにもねぇ。だからといって俺は、なにもしねぇことが嫌だ。可能性があるのなら、ひとつずつ潰していく」

「……お父さんそっくり」

「あ?」

「ううん、何でもない。ユエ、元気なイタチちゃんを首に巻きたいから、サクちゃんの言うこと聞く。……ユウナちゃん、あとで遊んでね」

「わかったわ。約束ね」

「うん!」

「なんだかこのチビが物わかりいいのも、気持ち悪いな」


 サクは苦笑しながら、ユエを静かに砂漠に下ろした。


「じゃあテオンちゃん、行こうか! ほらシバちゃんも、鳥さんも。蠍ちゃんよろしくね~。ユエが前ね」

「僕だよ!」

「駄目! 蠍ちゃんに指令を出すのは、ユエの役目!」



「……立ち直り早い奴。あっちはチビが仕切るのか。ははは、やっぱりテオンが面白くなさそうだ。テオンも仕切りたがるからな」


 サクが笑っている間、


『……ふうむ。あの幼子、遠い昔どこかで見たことがあったが……。だがそんな昔は生まれてはおるまい。あの幼子の先祖を我は見たのだろうか。記憶が…はっきりせんからわからぬ』

 
 ラクダが訝しげな顔を、ユエに向けていたことは、誰も気づかなかった。

 
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