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吼える月
第33章 出芽
 


 ◇◇◇



 緋陵の民は、砂漠の地下に生き延びているのではないか――。


 そう仮定したサクとユウナではあるが、民がいるとしてどこに居るのか、彼らをぐるりと取り囲む壁を叩いたり、耳を澄ませたりしたが収穫はなかった。


 壁は土壁だ。

 山国に育ち土と触れあう機会が多かったふたりは、風土に詳しいわけではないが、緋陵一帯が砂に覆われたのなら、この地下に砂の届かぬ土で出来た洞窟があるのは、不可解な砂漠化のせいとは思えなかった。

 しかも緋陵の民が使う、朱雀の模様が施された石の壁まで顔を覗かせる。

 砂漠化する前から作られていたものか、それとも砂漠化したことで地下に逃れた緋陵の民が作ったものなのか。


 だとしたら、なんのために石の壁は作られたのだろうか。

 民らしきものが見えず、落ちてきた上方にしか道なきこの場所では、意味ありげにある石の壁が皆の興味を引いた。


 サクはラクダに、てっとりばやく蠍の巨大な鋏で土壁を払って貰い、石で作られたものの全貌を突き止めようとしたが、


『なんたること! 我の客を、働かせるとは!』


 なにやら慌てたように、そう鼻息荒く反対した。


『土を溶かすぐらい我でも出来るわ!』

「どうやって……はっ、まさか!」

『土を溶かすは水なり!』

 その"まさか"が行われ、ラクダは鼻水を周辺に飛ばし始めた。

『ぶへぇぇぇぇぇぇ! ぶへぇぇぇ、ぶへぇぇぇぇぇ!!』

 方法はどうであれ、奇声と共に大量の水分を含んだ土地は汚泥となって流れ落ち、石が組み合わされた建物が見え始める。

 それを見て、ユウナはイタチについた砂を払いながら、感嘆の声を出した。
 
「ラックーなんか凄いわ。あんなにたくさんの鼻水が鼻にあるなんて」

「姫様、突っ込むところはそこですか! あんな下品な……」

「そうね、お上品なイタ公ちゃんは真似出来ないかも」

「はい、そんなイタ公なら、俺、思い切り遠くに飛ばしますから」

「ねぇ、サク。イタ公ちゃんの汚れちゃた毛……」

「やめて下さい、洗おうとしないで下さいよ!」


『どうだ、我の力、恐れ入ったか』


 ところどころ粘り気ある汚鼻水が垂れ下がってはいるものの、灰色の色をした石細工の建物の正面らしきものが顔を出した。

 かなり丈の高い建物だが、奥行きはどれほどあるかわからない。
 
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