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吼える月
第34章 連携
 


「なんでユエが知っているの!? ユエはこの緋陵の生まれなの!?」


 するとユエは頭を横に振る。


「じゃあなんで!?」

「……あの子が、子守歌でユエに歌ってくれたお歌なの」

「あの子って、今はいないあの綺麗なひと?」

「綺麗かどうかはわからないけど、あの子は緋陵生まれでお歌だけ覚えてるんだって。それでよくユエ、お歌歌って貰ったから」

「ユエはこの『神獣縁起』の内容はわかるの?」

「うん。童歌が必要なんでしょう? だからユエ、あの文字が解けるように変換表を……」


 シバとテオンがそれをのぞき込むと、それは文字になっていなかった。


「えへへ、凄いでしょう、ユエ!」


 幼女は胸をそらすが、ふたりは微妙な顔を見合わせた。


「ねぅ、ユエ。自分の名前、書いてみて?」

「え? うん」


 ユエが書いたものに、テオンが目を細めた。


「ユエ。どうして三文字?」

「あれれれ? じゃあ、うーんうーん、この字は尖ってユエあまり好きじゃないから、これを取る!」

「……ユエ。それを取っても、え、ま、だよ? ゆ、え、じゃないよ」

「きゃははははは! 間違えちゃった!」

「だったら僕の名前書いてみて?」

「うん。テ、オ、ンっと。はい出来た! 三文字、ばっちり!」

「うん、確かに三文字だけど……し、み、ほ。うん、て、お、んじゃないね」

「あれれれ? じゃあこれは?」

「か、み、め! どうして、前に書いた、み、がまた使われるのかな? ておんのどこに、み、があるんだろうね?」

「あれれれ?」


 テオンがきっぱりと言いきった。


「ユエ、君は字が読めても書けない。そうなんだろう!」

「ユエ、書けるもん! サクちゃんみたいなお馬鹿さんじゃないもん! ちょっと間違えただけだもん!」


 ユエの中では、サクは字を読み書き出来ないらしい。ユエは四肢をじたばたさせた。

 そんな駄々をこねても、子供を統率してきたテオンやシバにとっては、狼狽えるものではない。どうやれば癇癪のような我が儘が治まるのか、ふたりは知っている。

 それは突き詰めずに、受けたらすぐに流せばいいのだ。

 
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