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吼える月
第35章 希求
 
 

「ねぇワシちゃん、どうしたの? テオンとシバ達になにかあった?」


 ぴぇぇぇぇ~。


 ワシはなにかを訴えかけたいような声を上げ、ユウナの傍で羽を畳みながら、文を括った片足を前に出した。


「文?」


 ぴぇぇぇぇぇ!!


 ユウナは慌てて身を屈むと、文を外して紙を広げた。


 そこに書かれていたのは、乱れた筆跡――。


『危険! 蠍に気をつけて! 蠍が消えると、敵が現われる』


 ユウナはサクと顔を見合わせる。


「蠍?」

「蠍ってどの?」

「消える……ということは、俺が退治した、ワシが追いかけられていたあの蠍ですかね?」


 敵とは一体――。


『ひぃぃぃぃっ、見よ!』


 ラクダが恐怖に引き攣るような声を出し、ふたりは振り返る。


 ラクダが腕を伸ばした先にあったのは――、


「なっ!」


 地面からむくむくと起き上がる、数体の白骨。

 それはまるで、餓鬼を見ているかのような気味悪い悪夢で。

 さらに白骨が、意志を持ったように動き出す様は、あまりに異様でユウナは短い悲鳴を上げて、サクの背中に隠れた。

 それらはそれぞれに、砂に汚れた剣と盾を手にしていた。


 ラクダとワシが慌ててサクのところに来たのは、サクだけがここを突破出来る力を持つと、見抜いていたからだ。

 サクは、相手を見定めるように険しい眼差しを向けながら、赤い柄から出した刃を鞭のような七節棍に変える。


「ワシ、お前どこから蠍を連れてきた!」

 ぴぇぇぇぇぇっ!

「テオン達のところからついて来た蠍か!?」

 ぴぇぇぇぇぇっ!!

 ワシは何度も頷いた。

「つまり……、テオンが言っていたのがこのことだとするのなら、テオン達も今、同じ目に遭っているということか……」

 サクは柄をぎゅっと力を入れて握りしめる。

「蠍が消えるのは、合図か。……俺達をはじき出す……」

 その時ユウナが声を上げた。
 
「サク、あたし達を連れてきた蠍がいないわ!」

「は!?」

 サクは頭だけ後ろに向ける。


 いない。

 今までこの空間の突き当たりに鎮座していた、巨大な存在が。
 
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