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吼える月
第35章 希求
 


「あの蠍が出ていくところ、俺は見てねぇですよ!?」

「あたしもよ。たとえ解読に夢中になっていたとはいえ、わからなかったはずはないわ! だって出口は、あそこひとつしかないんだもの。あたし達を擦り抜けられるほどの道幅もないわ」

 カチャカチャ。

 この不穏な音は、起き上がり直立する白骨達が、右手に剣を、左手に盾を持ち、戦闘態勢に入っていることを告げるものだ。

「ひっ」

 薄汚れた白骨が動いている……それだけでも気味悪いのに、自分達に敵意を見せていることに、恐怖に怯えるユウナはサクの服をぎゅっと掴んだ。

 サクは怯えた様子はない。

 その広い背中が頼もしくて、ユウナは「サクがいるから大丈夫だ」と、何度も自分に言い聞かせるのだった。

「……これがヨンガの言う、排除法だとして、なんで突然これらが起き上がってきたんだ?」

 殺すことで消えた蠍が合図なのか、それとも存在そのものを消してしまった……自分達を運んだあの蠍が合図だったのか。

『な、なにゆえに……』

 どうやら蠍と友達だと言い張っていたラクダも、この不可解な事態についていけないようで、襲いかかる恐怖に、目以上に大きく広がった鼻の穴から、何度も粘液が滴り落ちた。

「皆、下がってろよ。下手に動くと、またどこからあいつらが湧いて出てく
るかわからねぇから」 

 サクが感じるのは殺気――。

 それは肉がない白骨から感じる。

 あれはただの骨ではなく、感情という意志があるのか。

 そしてサクは、白骨達が左手に持つ、古ぼけた盾に彫られた模様を見て、目を細める。

 それは神獣朱雀を表わす、鳥のような模様をした、緋陵の模様――。

「緋陵の模様だ。だとしたらこいつらは、緋陵の兵士なのか!?」

 倭陵大陸で、各国の象徴する模様がついた武器を手にできるのは、武神将が率いる兵だけである。

 つまりこの白骨は、武神将がらみの兵士の屍体なのだ。
 
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