この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第35章 希求
「あの蠍が出ていくところ、俺は見てねぇですよ!?」
「あたしもよ。たとえ解読に夢中になっていたとはいえ、わからなかったはずはないわ! だって出口は、あそこひとつしかないんだもの。あたし達を擦り抜けられるほどの道幅もないわ」
カチャカチャ。
この不穏な音は、起き上がり直立する白骨達が、右手に剣を、左手に盾を持ち、戦闘態勢に入っていることを告げるものだ。
「ひっ」
薄汚れた白骨が動いている……それだけでも気味悪いのに、自分達に敵意を見せていることに、恐怖に怯えるユウナはサクの服をぎゅっと掴んだ。
サクは怯えた様子はない。
その広い背中が頼もしくて、ユウナは「サクがいるから大丈夫だ」と、何度も自分に言い聞かせるのだった。
「……これがヨンガの言う、排除法だとして、なんで突然これらが起き上がってきたんだ?」
殺すことで消えた蠍が合図なのか、それとも存在そのものを消してしまった……自分達を運んだあの蠍が合図だったのか。
『な、なにゆえに……』
どうやら蠍と友達だと言い張っていたラクダも、この不可解な事態についていけないようで、襲いかかる恐怖に、目以上に大きく広がった鼻の穴から、何度も粘液が滴り落ちた。
「皆、下がってろよ。下手に動くと、またどこからあいつらが湧いて出てく
るかわからねぇから」
サクが感じるのは殺気――。
それは肉がない白骨から感じる。
あれはただの骨ではなく、感情という意志があるのか。
そしてサクは、白骨達が左手に持つ、古ぼけた盾に彫られた模様を見て、目を細める。
それは神獣朱雀を表わす、鳥のような模様をした、緋陵の模様――。
「緋陵の模様だ。だとしたらこいつらは、緋陵の兵士なのか!?」
倭陵大陸で、各国の象徴する模様がついた武器を手にできるのは、武神将が率いる兵だけである。
つまりこの白骨は、武神将がらみの兵士の屍体なのだ。