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吼える月
第35章 希求
 

 ハンの扱きが、サクの身体の細胞のひとつひとつにまで行き渡っているから、サクの身体は無意識に危機を感じると回避と攻撃に動くのだ。

 いつもの通り、ユウナを守ろうとする。

 それがどこかくすぐったい思いになりながらも、悔しくて。

 守っているはずなのに、こんな状況でも守られるのが。

 もっと成長したい。
 もっと強くなりたい。

 サクを守る力をどうかあたしに。

 神獣玄武よ、どうかその力をあたし達に。


 やがて――。

 目を瞑り、両手を突き出したまま……サクの端正な顔が、苦悶の色を浮かべ始めた。
 まるで、見えないなにかと戦っているかのように。


 ユウナの耳飾りが仄かに光るのを知らずして、ユウナは好機が訪れたことを無意識に悟る。


「サク、今よ!!」



「はあああああああ!!」



 耳飾りが、サクの気合いの声に弾かれたかのように跳ね上がり、ユウナの視界で耳飾りだけではなく、サクも光を放っていることを彼女は知った。


「サクから、イタ公ちゃんの力が!!」


 力が封じられていても、サクは玄武の力を発現させている。

 サクは、限界を超えたのだ。

「サク……」

 サクの力の偉大さを、誰かに自慢したいほど高揚する心を抑えながら、ユウナは密やかに感涙した。

 サク。
 サク。

 
「イタ公、この力、使わせて貰うぞ!!」


 サクの叫び声と共に光が強まり、ゴゴゴと地鳴りがしたと思うと、白骨がばらばらと崩れて地に落下する。

 その瞬間、赤光の標的はサクとなった。


「サク、来る!!」

「朱雀の力に、玄武が負けるかぁぁぁっ!!」


 ユウナの声と同時にサクは苦しげな声を出して、さらに発光する。

 サクに向かわれる赤光を、サクが纏った薄い水色の光が押し返す。

 
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